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大阪高等裁判所 平成6年(う)651号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人小嶌信勝、同小林照佳、同石丸鉄太郎連名作成の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は検察官東厳作成の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。

控訴趣意中、公訴棄却の主張について

論旨は、(一)金融機関の役職員が売春防止法違反(資金提供罪)で起訴されたのは、被告人だけであること、(二)被告人は、昭和六三年六月ころ、福原地区の個室付浴場業者に二億一〇〇〇万円を融資した件で取調べを受けた際、警察から、福原地区の個室付浴場業者は売春業をしているので、融資をしないように指導され、その指導を守っていたのに、その一年一か月経過後に、右融資の一年三か月前の僅か一〇〇〇万円の融資にすぎない本件融資について起訴されたこと、(三)決裁権者である甲野信用金庫営業本部長であるAは被告人の共犯者として取調べを受けながら起訴されていないこと、(四)本件融資先のB等に建物を貸与し、一か月一〇〇万円の家賃収入を得ているCも、起訴されていないこと、(五)B及び同人と「乙山クラブ」を共同経営していたDは、他にも個室付浴場を経営したり、他に貸していることを自供しているのに、捜査官は、これらについて捜査していないこと、(六)個室付浴場を経営しているEや長年個室付浴場を経営し、福原地区の業界の会長をしているFは、本件の参考人として取り調べられた際、管理売春をしていることを自供しているのに、立件もされていないのであって、本件公訴は、最高裁判所昭和五二年(あ)第一三五三号同五五年一二月一七日第一小法廷決定(刑集三四巻七号六七二頁・いわゆるチッソ川本事件)が公訴権の濫用として公訴棄却ができる場合の例示として掲げる、「公訴の提起自体が職務犯罪を構成するもの」ではないが、それに匹敵する憲法一四条一項、三一条、刑事訴訟法一九六条、一九八条、二二三条の違反が複合する違法な捜査によるものであり、また、最高裁判所昭和五五年(あ)第三五二号同五六年六月二六日第二小法廷判決(刑集三五巻四号四二六頁)がいう、「公訴提起を含む検察段階の措置に、被告人に対する不当な差別や裁量権の逸脱等があった場合」に該当し、公訴権を濫用してなされたものであるから、原判決を破棄して、刑事訴訟法三三八条四号により公訴を棄却するのが相当である、というのである。

しかしながら、所論にかんがみ一件記録を調査して検討すると、被告人は、刑事訴訟法の手続に従い逮捕・勾留されて取調べを受け、検察官から公訴を提起されたものであるところ、検察官が公訴提起するかどうかは、収集し得た証拠の量、質が有罪判決を得られるまでに達しているかどうか、事案の性質、軽重等諸般の事由に照らし、起訴を相当とするか否かなどを総合的に判断して決するものであって、多数の同種違反者がいると思料されるのに、起訴されたのは被告人のみであるなど所論指摘の各事実があるからといって、本件公訴の提起が、それ自体犯罪を構成する場合に匹敵するといえないことはもとより、検察官に被告人に対する不当な差別や裁量権の逸脱があったものとまでは認められない。

なお、所論は、被告人は、取調べの際、警察官から暴行・脅迫されたうえ、更に、留置場から取調室に連行される際、呼出を受けていた事件関係者等の前を手錠・腰縄の姿で歩かされ、また、甲野信用金庫の職員は女子職員を除き全員職務内容を問わず、逮捕する旨仄めかされて、被告人の共犯者として取り調べられたから、本件公訴は無効であるというのであるが、仮にそのような事実があったとしても、それらは被告人や兵庫信用金庫の職員の捜査官に対する各供述調書の任意性や特信性に影響を及ぼす可能性はあっても、公訴提起自体を無効とさせるものとは認められない。論旨は理由がない。

控訴趣意中、訴訟手続の法令違反の主張について

所論は、原判決が、被告人に対し有罪の言い渡しをした決定的証拠は、検察官が、刑事訴訟法三二一条一項二号後段の書面として請求したF及びEの各検察官に対する供述調書であるが、Fは、福原地区の個室付浴場の協会の会長をしている関係上、警察と親密な関係があり、また、Eは他の金融機関からの借入金を一本化するための融資を甲野信用金庫に依頼して拒否されたいわば甲野信用金庫に敵意を持ち、しかも、売春防止法違反で起訴され、業務停止の行政処分を受けた後に、営業を再開しており、何時また検挙されるかも知れないという極めて弱い立場にあり、このような両名の警察官に迎合し、誘導・誤導によって全く事実と掛け離れたことが記載された警察官調書をもとに作成された右両名の検察官調書は、特信性のないことは明らかで、これらを採用した原審は刑事訴訟法三二一条一項二号後段の解釈・適用を誤ったものであり、これが判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、原判決は破棄を免れない、というのである。

そこで、所論にかんがみ検討するに、原審証人Fの供述によっても、同人は警察から指導を受ける立場以上の親密な関係があったものとは認められず、また、Eが所論のいうように何時また検挙されるかも知れない立場にあったとしても、同人がことさら嘘をついてまで甲野信用金庫をおとしめようとするような敵意を抱いていたことを認めるに足る証拠はないのであり、両名とも本件甲野信用金庫のBに対する融資に直接利害関係のないことは明らかである。そして、両名の検察官に対する各供述調書の内容が、所論指摘のように、全く事実と掛け離れたことが記載されているものとは認められず、むしろ、公判廷供述より自然で、整然としているのに対し、両名の証人調べは調書作成の四年後にそれぞれ行われていること、両名の各公判廷の供述内容はあいまいで、揺らいでいること等の事情を勘案すると、両名の各検察官に対する供述調書に特信性があるとしてこれらを採用した原審の判断が違法、不当であるとは認められない。

所論は、Fは、平成元年七月三一日付の検察官に対する供述調書で、昭和五七年一月ころ、甲野信用金庫神戸駅前支店の多数の職員がいる公開の場で、被告人に月々の返済額を減額して欲しいと頼んだ際、店の入浴料を今まで七〇〇〇円一本にしていたけれど、これから七〇〇〇円と五〇〇〇円の二本立てにして客の増加を計りたいといったとか、昭和六二年一月末ころ、他の業者から預かっているソープ嬢の払うべき税金を定期預金にするため、甲野信用金庫神戸駅前支店に行った際、公開の場で、被告人にエイズ騒ぎで女の子が皆サックせんと怖いというんで困ってるんですよといったら、被告人はわしらでも怖い、このままでは女の子が皆辞めて逃げて、貸金が回収できんようになるといったと供述するが、公開の場でそのような会話をすることは通常の常識では考えられないことであって虚偽であることは明らかであるというのである。しかし、右支店は個室付浴場業者の集中する福原地区を地元に抱えるうえ、Fが個室付浴場業者であって、融資先の金融機関の行員に対して、返済額の減額を求める理由や経営状況及びその改善策等を打ち明けることは何ら不自然、不合理なことではないことを考慮すれば、そのような内容の会話がなされても、あながち常識はずれの虚偽の供述であるとはいい難い。

また、所論は、検察官が特信性の立証をしていないのに、漫然とこれらを採用した原審は刑事訴訟法三二一条一項二号後段の解釈・適用を誤ったものであるというのであるが、同法条により証拠調べを請求した検察官は、既に行われた証人尋問において、特信性の立証は為されていると考えれば、改めて特信性の立証のために証人尋問の申請をしなければならないものでなく、また、裁判所も既に行われた証人尋問の内容を踏まえて、任意性、特信性の判断をすれば足るのであって、所論は採用することができない。

更に、所論は、原審は、売春防止法一三条一項の犯意について厳しい絞りをかけた解釈をしたため、原審証人B、同Dの各供述は勿論、原審証人F、同Eの各供述によっても、被告人が、Bが売春場所を提供することを業としているとの具体的な認識を有していたとは認められないことから、被告人を有罪にするために、F、Eの検察官調書を採用せざるを得なくなったものである、というのである。しかし、記録から窺われる原審の証拠採否の経過に徴すると、原審は、検察官請求にかかる各供述調書の任意性、特信性を慎重に検討した結果として、甲野信用金庫職員やB、Dの検察官に対する各供述調書の証拠請求を却下したうえ、被告人の供述調書については身上関係の供述調書のみを取調べ、その他の調書については証拠請求を却下し、F、Eの検察官に対する各供述調書は刑事訴訟法三二一条一項二号後段の要件を充足するものとしてこれらを採用したものと認められるのであって、被告人を有罪にせんがために、ことさら右要件を充足しないのにかかわらず前記F、Eの検察官に対する各供述調書を採用したとは認められない。論旨は理由がない。

控訴趣意中、事実誤認の主張について

所論は、被告人は、本件犯行当時、「乙山クラブ」は、売春婦多数に売春の場所を提供することを業としていることは知らず、性行為以外のサービスが法律上許された特殊公衆浴場であり、兵庫県公安委員会に届出をしてその監督に服している正規の営業であるから、普通の正当な融資と考え、甲野信用金庫の内規に従って稟議し、決裁権者である甲野信用金庫営業本部長Aの決裁を受けて本件融資をしたものであるから、被告人には、売春防止法一三条一項違反の犯意はなかったのに、Bが個室付浴場「乙山クラブ」で売春の場所を提供することを業とし、その開業資金に充てることの情を知りながら、一〇〇〇万円を貸与したと認定した原判決は事実を誤認したものである、というのである。

所論にかんがみ記録及び原審において取り調べた証拠を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せ検討するに、原判決摘示の関係各証拠によれば、原判示の事実はこれを認めることができ、原判決の判断は、原判決が(争点に対する判断等-判示事実を認定した理由及び公訴事実中の共謀の事実を認定しなかった理由等)の項で詳細に説示するところを含め全て正当として是認することができ、当審における事実取調べの結果を加えて検討してもこれを左右することはできない。以下、主たる論点について検討する。

Bの原審証言等について

所論は、原判決は、被告人は、当時、連日のようにエイズ関連の報道がなされ、福原地区全体が経営的に苦しい状況であったことを知っていたため、右の事情を懸念して、Bに対し、店を維持していくだけの売上げが確保できるかどうか確認したと認定した(前同四の6)が、右に沿うかのような原審証人Bの供述は、例えば、福原のソープランド従業員の中からエイズ患者が出たことを前提とする検察官の誤った尋問に対し、同証人が肯定的な態度を示していることからしても、検察官の誤導・誘導によるもので信用できない、というのである。なるほど、神戸市内で最初にエイズ患者がでたと報道されたのは、元町であって福原でないことは所論のとおりであるが、他方、原審証人Fは、エイズ騒ぎで福原の全ての業者の経営状況が悪化していることから、被告人に対し、女の子が辞めて逃げるかもしれない、貸金の回収ができなくなるかも知れない等と話したと供述していることからしても、被告人は、福原地区の個室付浴場業者も、エイズ騒ぎの影響を受け、客足が遠のき、女性従業員も不安を持っていたことを知っていたものと認められ、Bに対する融資についても、その返済について懸念を持ったことは十分推認できるのであって、証人Bが、被告人から店を維持していくだけの売上げが確保できるかと聞かれたと供述するところは、信用できるものと認められる。

また、所論は、原判決は、被告人は、Bから甲野信用金庫の融資実行を待たずに開店した「乙山クラブ」の三日間の売上げ等を基にした「資金使途の説明」、「収支予想(一ケ月)」と題するメモを示され、客一人当たり八〇〇〇円以上の売上げがあること、客足についても徐々に回復しつつあること、経営的には心配しておらず、返済には支障は生じない等の説明を受けたと認定し(前同四の6)ながら、一方、同項の7では、右のメモ等に基づくBの被告人に対する説明は大雑把になされ、メモに掲げられている数字の根拠、例えば人件費が何故六〇万円になるか等の具体的説明はなかったと認定しており、明らかに理由の齟齬を来たしているうえ、原審証人Bは、三日間でこの位あったということをG支店長に申上げたんじゃないかという記憶ですけれども、資料はみせていないと思いますと供述しており、原判示のように認定できる証拠はない、というのである。しかし、原判決の説示は、Bから被告人に対して、メモに記載された数値の根拠や詳しい説明はなされず、単に客一人当りの売上げや客足の回復度からして、返済には支障がないとの大まかな説明がなされた趣旨と理解され得るから、説示が前後で齟齬しているとはいえず、また、融資稟議説明書(当庁平成六年押第一九四号の符号1の1)にBが作成したことが認められる「資金使途の説明」、「収支予想(一ケ月)」と題するメモが添付されていること及び原審証人Bは、被告人に出勤した女の子の名前と入店、退店時刻及び取った客の数を書いたリスト表は示していないが、前記二通のメモを渡して、三日間で客一人当り八〇〇〇円の売上げをあげ、エイズ騒ぎも二、三か月もすれば収まるから心配していない、返済は可能であると説明したと供述していることからすると、右Bの原審証言には格別不合理な点はなく、その信用性を肯定した原判決の判断に誤りがあるとは認められない。

F、Eの各検察官調書について

所論は、原判決は、Fは、昭和五七年一月ころ、甲野信用金庫神戸駅前支店において、大規模店が福原に進出してきたため、経営している個室付浴場の売上げが減ったことから、融資返済金額の減額を依頼した際、被告人に対し、今までは、入浴料七〇〇〇円の一本でやってきたが、これからは、七〇〇〇円と五〇〇〇円の2本立てにして客の増加をはかる。入浴料は店の収入になる。入浴料五〇〇〇円の時は別に女の子の取り分が一万円、入浴料七〇〇〇円の時は一万三〇〇〇円が女の子の取り分となる旨説明した。また、同時期には、同様の減額を求めて神戸駅前支店に来る個室付浴場業者が三、四軒あったと認定し(原判決の争点に対する判断等-二の4)、また、Fは、同年一月下旬ころ、被告人に対し、エイズ騒ぎで女の子が皆サックをせんと怖いと言って困っていると話し、知人にも、女の子たちが辞めて逃げるかも知れない、融資の返済ができなくなるかも知れない等と話したと認定し(前同二の5)、更に、本件後のことであるが、福原地区で個室付浴場を経営しているEは、昭和六二年暮れか昭和六三年初めころ、被告人から今後どのような経営をするつもりか尋ねられ、今までどおり二万二〇〇〇円コースで店落ちは八〇〇〇円でやっていく旨答える等していると認定した(前同二の5)が、これらに沿うF、Eの各検察官に対する供述調書は同人等の公判廷供述に対比すれば信用性がないこと明らかである、というのである。

しかしながら、F、E証人の各公判供述は、全体的にあいまいで記憶が明確でない部分があるのに対し、検察官に対する供述調書は、比較的記憶が鮮明な時期における供述を録取したものであり、右両名は、その当時の記憶に従って供述し、そのとおり録取されたものであると述べているところ、所論がいうように、Fが警察と昵懇な関係にあり、Eが甲野信用金庫に対して敵意を抱いており、警察に対しては何時検挙されるかも知れない弱味があることから、両名は捜査官に迎合して、被告人に不利な虚偽の供述をしているのであれば、その後、状況が変化したとは思われないのであるから、約四年後の証人尋問に際しても検察官に対する供述調書におけると同様の供述をしてしかるべきところ、両名とも相反する供述をしたり、あいまいな供述をしていることに徴すると、右両名の公判廷供述よりは検察官に対する供述調書の方がより信用できると認められる。

A営業部長との共謀について

所論は、原判決は、貸出稟議書の記載内容で、一方では被告人の本件違反の犯意を認めながら、他方、昭和四九年四月から同五二年九月まで甲野信用金庫神戸駅前支店の支店長として福原地区の個室付浴場業者に対する融資業務を経験しているA営業部長については、情を知っていたとはいえないと認定しているのは、被告人には納得できない、というのである。しかし、原判決書によれば、原判決は貸出稟議書の記載内容のみで被告人の知情性を認定したものでなく、他の状況証拠をも併せてこれを認定していることは明らかであり、Aについては、関係各証拠から知情は認められないとして、共謀を否定した原判決の認定・判断に誤りがあるとはいえない。

原判決の法律の錯誤の判示について

所論は、原判決は、本件では個室付浴場全てが売春業を営んでいるかどうかが問題なのではなく、本件融資当時、B等が「乙山クラブ」を売春婦に売春をする場所として提供することを業としようとしていたことを知っていたかどうかが問題なのであるから、右の点についての未必的な認識があれば、売春防止法一三条一項の認識として欠けるところはなく、右認識があれば、たとえ、「乙山クラブ」を含む個室付浴場が法律上許可を受けた正規の営業と考えていたとしても、それは単なる法律の錯誤に過ぎず、同法条の故意を認めるに十分である(前同五の2)と判示するが、法治国家において、国が個室付浴場を法律で公認し、兵庫県、神戸市もこれを公認している以上、たとえ、営業内容の特殊性から中には売春する者があったとしても、それはそれで売春防止法違反で検挙すればよいのであって、この営業そのものは、一度も廃止の法案が提出されない以上、国民全体にとって必要であるから廃止にならないものである。一般の国民として、国や県や市が、いずれも、この制度を是認して許可している上、保健所が定期的に検査までし、警察・公安委員会が監督し、かつ、福原地区における個室付浴場の許可を受けた店七〇数軒が毎日堂々と営業をしている現状では、まさか個室付浴場業の経営者が専ら売春業をしているとは思わないのが普通である。原判決の法律の錯誤論は到底承服できない、というのである。

しかし、本件で問題となるのは、Bが売春婦に売春をする場所を提供することを業としており、本件貸付金がその資金に充てられることを、被告人が知っていたかどうかであり、「乙山クラブ」が個室付浴場の許可を受けているか、福原地区の個室付浴場業者が一般的に売春業を営んでいるかどうかではないのであるから、原判決の説示に何等不当な点はない。

許可官庁等の犯意の問題について

原判決は、弁護人は、個室付浴場業者に許可を与えた官公庁や、電気、水道水等を供給する会社なども幇助犯を免れなくなるし、公安委員会が廃業処分を行わないのは問題であるともいうが、売春防止法一三条一項の認識としては単なる一般的、抽象的な認識では足りないのであって、右主張はあたらない(前同五の2)と判示するが、弁護人は、神戸市長や関西電力の担当者や水道局の担当者も売春防止法一一条二項違反の幇助犯となるのにそれを放置しているのは問題であり、公安委員会が営業廃止処分を行わないのは実質的に個室付浴場営業を保護している証左であり、売春防止法一一条二項違反の幇助犯となるのを問題にしているのに、この主張を排斥しているのは失当である、というのである。

しかしながら、原判決の説示は、本件で審理されているのは、通常の幇助犯より重く処罰されている独立罪である売春防止法一三条一項違反の事件であるから、被告人の犯意を認定するには、福原地区の個室付浴場が全て売春をしていることは何人も認識しているが如き単なる一般的、抽象的な認識では足りず、融資先のBの営む個室付浴場「乙山クラブ」が売春場所を提供することを業とするもので、融資金がその使途に充てられることについての具体的認識が要求されるといっている趣旨と理解されるのであって、そもそも、本件審理の対象は神戸市長等が売春防止法一一条二項違反の幇助犯となるかどうかではないうえ、弁護人の主張するところが肯定されようと否定されようと、被告人の売春防止法一三条一項違反の認定には何の関係もないのであるから、これに直接答えていないからといって、何ら問題はない。

その他、所論がるる主張するところに従って更に記録を検討しても、原判決の事実認定に判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があるとは認められない。結局、論旨は理由がないことに帰する。

よって、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとし主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 朝岡智幸 裁判官 菅納一郎 裁判官 笹野明義)

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